共通する世界観とキャラクターからなる物語を、多数書いておられる作者様。
そのシリーズ最新作となります。
他作を既読か未読かで、受ける印象や理解度は異なると思います。
読者によって感じ方が変わるということですね。
本作の魅力は人物描写の巧みさ。
書きすぎず、かといって描かなさすぎず。
仕草から匂ってくるキャラクターの個性が本当に多彩。
シリーズとして展開し、作者様が育んできた登場人物との絆がなせる業でしょう。
近況ノートに貼られた自筆の挿絵も楽しいですね。
もちろんストーリーだって負けてはいません。
どこか儚さと危うさを感じるリューは雪花人。
彼の持つ、癒しの力が対象とする「もや」とは?
異能の行使の代償がもたらす行く末は?
侯爵家の内外で織りなされる人間模様の裏側で、事態がゆっくりと動き始めています。
柔らかな日常ベースの繊細な物語を、一緒に追ってみませんか。
治癒の力という異能力を持つ青年リュヴァルト。
彼はその力のために追われていましたが、侯爵令嬢のアネッサによって保護されるところから物語がはじまります。
異能力者の出てくるファンタジーといえば、ここからヒロインとの共闘や悪者とのバトル、あるいは悪しき心を持ったモンスターたちの討伐などなど。そういった物語を連想される方も多いかと思います。
熱いバトルも権謀術数が繰り広げられるストーリーもたのしいけれども、時にはゆっくり時間が流れていくファンタジーもたのしみたい。そう言ったおだやかでやさしい物語を求めている方も、少なくないのでは……?と思うのです。
本作品は、図書室で眠るハードカバーの本を読んでいるときのように、または映画のワンシーンを追うときのように、ゆっくりと物語をたのしみたい方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
冒頭で出会ったリュヴァルトとアネッサ。そしてアネッサの甥っ子であるウィル少年。三人が中心となって紡がれていくストーリーはとてもやさしく、子どものときにわくわくしながら読んだ本のよう。
またこの物語は作者さまの他の作品ともリンクしていますので、今作品ではサブキャラだった人が別の作品では主人公!というたのしみ方もあります。
たとえば、この作品では子どものウィルですが、“綺羅星の子“では彼の成長を追えるストーリーだったり、“Honey and Apple 〜おてんば娘は年の差幼馴染に恋してる〜“では、なんと大人になったウィルがヒロインのお相手であるヒーローだったり、また別の作品では主人公の兄だったり。
どの作品から読み進めてもたのしいのですが、個人的なおすすめはこちらの物語からですね!
何かと忙しない日々を送っていると、立ち止まって空や星を眺めることも忘れてしまうのですが、こうした疲れたときに触れたくなる作品なのです。
魔物が出てくるわけでも、悪役令嬢が出てくるわけでもありません。
けれど、この物語は確かにファンタジーだと言いきれる空気感があります。
作者様の描く世界に生きている人々の営みや息遣いが自然に感じられ、何処か懐かしいような、何故か故郷に帰ってきたような。切なさと暖かさを同時に感じられるような。
想い出のページを開いた感覚がする、そんな物語です。
物語の一人ひとりの日々に笑ったり、泣いたり、胸をぎゅっと掴まれる心地になったり。
けして楽しいだけのお話ではありません。
けれど読んだ後には「読んで良かった」と思える素敵な作品です。
わかり易く簡単な文章で綴られる物語が多くなった昨今ですが、日本語って綺麗だな素敵だなと思える物語です。なのにとても読みやすいのでオススメですよ!!
こんな物語が読みたかった!
『Honey and Apple』、『綺羅星の子』で描かれるウィルの少年時代の物語。りつかさんが奏でるストーリーはいつも、誰の心にも残るような、暖かくて優しい感動を呼び起こしてくれます。時間をかけ丁寧に紡いだ描写には溜息がでます。
そうそうハイレベルな絵師でもあるりつかさん、挿絵も必見ですからね✨
『無駄に時を過ごすべきじゃない、全力で助けるから』
アン(アネッサ)の言葉にリュー(リュヴァルト)は諦めかけていた願いを思い出します。人が生きると言う事はどういうことなのか、リュヴァルトの運命は?
珠玉のファンタジーをお楽しみください。
「無駄な時なんてないよ、アン」