時は1950年、アメリカの名探偵エドワード・オーウェンの活躍を記録し続けた小説家アンソニー・ブレアが亡くなった。父を亡くしブレアの世話になっていたオーウェンの娘は、ブレアの私物の中から一冊の手記を発見する。短くまとめられたその手記には名探偵と記録者の出会いと別れ、そして意外な真実が記されていた……。
ワトスン的立場だったブレアの視点から、アメリカのシャーロック・ホームズと呼ばれたオーウェンの軌跡を描く本作品だが、オーウェンの生涯はある意味探偵小説の歴史をそのままギュッと凝縮したようなものにも見える。
活動を開始した当初は、数々の怪事件の謎を華々しく暴き立ててまさに名探偵といった活躍を見せたオーウェンだが、やがて探偵の存在そのものが事件に影響を与える「観測者問題」や、与えられた手がかりが全て正しいとは限らない「後期クイーン問題」など探偵が避けては通れぬ問題に次々ぶち当たっていく。それでも探偵であることを求められ続けた彼は「最後の事件」へと辿りつく……。
この一人の探偵の生涯だけでも十分に面白いのだが、本作をさらに魅力的にしているのが、語り手であるブレアの存在だ。出会った当初は意気投合していたが、時が経つに連れ探偵として謎解きを求められることに辟易とするオーウェンと、そんな彼に対して「きみにはシャーロック・ホームズでいてもらいたかったよ」と心中で思うブレアの関係性は大変エモい!
最後まで読み終えた後に、物語を最初から見返したくなるミステリーらしい仕掛けもしっかりとあり、ミステリーファンはもちろん探偵と助手の関係性が好きという方には是非読んでもらいたい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)