第2話 宇宙要塞バベル

「識別コード自体がこのデータベースにありません!」


オペレーター席からの声に、副官のリアムが反応する。


「まさかこんな時に動作不良……いやバグワームの赤表示は正確だな、エラーの確認をこっちの画面に回してくれ。」


オペレーターは急いでコンソールを操作し始め、画面に表示されたデータを送信する。


「これは所属不明機に対する反応、今の時代に統合運用計画の識別コードを使用してない?だがバグワーム共の捕捉は出来てるならタレットの運用に影響は無い、ミサイルキャリバの設定は孤立したバグワームのみを狙え。」


「「了解。」」


バベル要塞の人員の練度は高い、ゲーム風に表現すれば秀逸、指揮官もアビリティ持ち、大声で状況を共有する事はあってもうろたえはしない、不備があるなら不備を含めた運用を、ここに居るのは合理的な軍人だった。


キャリアミサイルポッドが開き、

ターゲット補正を行ったミサイルが発射準備を整える。


「キャリアミサイル、ロック完了!」


発射されたミサイルが戦場に放たれ、

孤立したバグワームをピンポイントで撃ち抜く。


ドォォォン!!


宇宙空間に火球が閃き、バグワームL級の随伴艦が爆砕する。


「リアム副官問題はなさそうだな、現状報告。」


「オーナ、現在アメリゴ連邦とコロンブス共和国の艦船に襲い掛かるバグズと戦闘中、ただ、アメリゴ連邦とコロンブス共和国の艦船の識別が出来ないため、戦艦クラスのバグズに有効な実弾兵器、ミサイルの使用に制限がある形です。」


「そうか、識別不能艦は海賊か?」


「正規艦隊に見えます。」


「なら統合運用計画憲章に従いバグワームの迎撃に従事する。」


よくここで統合運用計画憲章なんて言葉を思い出せたなと思いつつ自分の席に座る。


「艦隊司令に繫げ。」


モニターに表示された人物は直ぐに敬礼の姿勢を取る。


「オーナー、こちらバベル駐屯艦隊長官クロード、艦船の出撃指示を受けたが全てモスボールされている状態だ、だが戦艦ならモスボール処理状態でもタレットの起動が可能、戦力になると愚考します。」


迷う。沈む所属不明艦、情が、いやゲームならどうする?


「クロード艦隊長官、戦艦三隻、護衛艦五隻、大型艦の全て出す事を許す。中型小型の艦船のモスボールを急げ、お前の判断に任せる。」


商人プレイだったから犯罪勢力以外とは仲が良かったはず、ヘイトは目の前の艦隊とコロニーに向いている事から背後から殴れるうちに殴る。


ここで出せる兵力を出すのは間違いじゃないはずだ。


目の前でバベル要塞の全ての戦力が動き始めた。


タレットがバグズを狙い、ミサイルキャリバは孤立したバグワームを優先的に狙うように設定され、戦艦や護衛艦も出撃し、バグワーム艦隊背後に食らいつく形になった。


戦闘が激化する中ようやく周囲を見渡す余裕が出来た。


全員が自分の役割を果たし、的確に動き、バベルの戦力を最大限に活用している。

ゲームだった頃はただの賑やかしと微量なステータスアップ程度の効果しかなかった彼らが、

今は 現実の人間として、俺の命令を受け、戦っている。


「……俺が居なくても、こいつらだけで良いんじゃ?」


そんな考えが脳裏をよぎる。


無事この戦闘は終わりそうだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


場面は変りアメリゴ連邦軍・夕暮れの星セクター駐留艦隊、旗艦「アマデウス」――


ブリッジに響き渡る 戦闘警報 とオペレーターの緊迫した声。


「バグワーム艦隊、前衛が防衛ラインを突破! M級が戦列を広げ、S級機動部隊が突撃してきます!」

「L級の攻勢が激しい、このままではコロンブス共和国側の艦隊が持ちません!」


旗艦 アマデウス の艦長、スティーブン・ダグラス大佐 は険しい表情で前線スクリーンを見つめた。

目の前には バグズL級を中心とした敵の大艦隊。

彼らの襲撃に対し、連邦軍の戦線は崩れ始めていた。


「まずい……この戦力差では、ここで全滅する!」


「艦隊砲撃、全火力解放! 右翼防衛艦隊は敵の包囲を突破せよ!」


ズゥゥゥン――!!!


宇宙に閃くレーザーと砲火。

アメリゴ連邦の戦艦群が次々と バグワームに砲撃を加える も、 敵は数で押してくる。


「駄目です! バグズの速度が速すぎます!」

「援軍は?!」

「ありません!コロンブス共和国艦隊も防戦一方です!」


――その時だった。「未確認要塞」の出現


「司令! 未確認要塞が戦域に侵入!」

「何っ!? どこの勢力だ!」


「……識別コード不明! IFF登録データなし!」


ダグラス大佐の眉がピクリと動く。


「まさかこの状況で何処が?」


次の瞬間、戦域モニターに 巨大な要塞 が映し出された。


それは連邦のどの設計とも異なる。


まるで コロニーそのものが移動しているかのような巨大要塞。


「……なんだ、あれは?」


要塞はゆっくりと移動しながら、タレット群を展開する。


そして――


ドォォォン!!!


無数のレーザーと実弾兵器が一斉発射され、

バグワームの前衛部隊を正確に撃ち抜いていく!


オペレーターが驚愕の声を上げた。


「バグワーム艦隊の前衛が……消えました!」

「未確認要塞、バグズを攻撃中! しかし、我々には一切の通信なし!」


圧倒的な火力に戦場の均衡が崩れる

戦場を支配していた バグワームの猛攻が、突如として鈍る。

未確認要塞――バベルが、戦場に介入したのだ。


一発のキャリアミサイルが孤立したバグワームを爆砕する。

その精密な攻撃に、連邦艦隊の士官たちが驚愕する。


「なんという……魚雷であの精度だと!!」

「これは連邦の戦術ではない……!?」


バグワームの陣形が崩れる。

未確認要塞の火力が圧倒的であることが、誰の目にも明らかだった。


「しかし、識別コードがないということは……」


フロウ少将は歯を食いしばる。


「敵か、味方か……?」


未確認要塞 バベル はバグワームを攻撃し続けている。

しかし、アメリゴ連邦にもコロンブス共和国に対し、何の通信もない。


まるで "この戦場における正体不明の第三勢力" のように。


「……下手に動けば、我々も撃たれるかもしれん。」


少将はそう呟き、戦況を見極める決断をした。


バグワームの前衛は削られた。

戦況は一時的に持ち直したが、状況は依然として不透明。


「未確認要塞の動向を監視しろ。」

「了解!」


アメリゴ連邦第七艦隊は、謎の要塞「バベル」 を見つめ続ける。


敵なのか、味方なのか――。


その答えは、まだ誰にもわからなかった。

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