作者様は「あなたの世界は、本当に“現実”ですか?」と問いかけます。
オムニバス形式に連なる掌編を読み進めると確信します。作中の世界は捻れている、自分のいる世界こそ現実だと。逆説的ですが、私達が生きている日常は論理が整合していることに気付かされます。
自業自得の物語とは限りません。そうであったならば悪業には罰が待っています。やり逃げやり得の掌編もあり、それらが恐怖を増します。罰が下されるかどうかも気まぐれな世界が続き、行き着く先が見えないことへの怖れが背筋を這います。得をしたからといって気が楽になる訳ではない人間心理の盲点を突きます。
作中人物が錯乱していないことは文体が精緻であることで分かります。本作の語りは精緻である必要があります。清明な精神で奇怪な世界を見つめる、そこに立ち上がる違和感たるや。
捻れた世界も筆一本で描き出せる、小説という媒体の強さを見せつけています。
「卒業式のあとの卒業式」まで拝読しました。
まず、私事で恐縮ですがHNの兼ね合いで最初のエピソードに妙な思い入れを抱きながら読んでしまいました。玉子……。
と、それはともかく、全編を通して感じたのは、若者らしい爽やかさや瑞々しさと非日常が合わさり、ほんのりと人の秘めたる狂気が匂わされているところです。
美しい情景と等身大の内面をじわじわと蝕むように滲んでいく奇妙な出来事に触れていると、まるで深い霧中を彷徨っている最中、いつの間にやら着衣がすっかり重くなってしまった、そんな心地にさせられます。
それでもなお次へ、次へとページをめくる手が止まらず、何かをきっかけに我に返らなければ、どこまでも読んでしまいそうな魅力がありますね。
個人的に好きだったのは「回覧日記」ですが、どのエピソードもオススメできます。
折を見て引き続き読ませていただきます。
一話完結の短編集なのですが、その全てがとても不思議なお話で。
昼間に読んでも面白いのですけど、夜中のシンとした時間に読むと、雰囲気が相乗効果を起こして物凄く良いです。
ハッピーエンドもあるし、バッドエンドもあるし、思わず身をこわばらせるエンドもある。
その一話一話全てが素晴らしいクウォリティーで。
作者様の作品を拝読するのはこの作品が初なのですが、一気に引き込まれて他の作品も気になり始めました。
今まで作者様のお名前はTwitterで存じ上げていたのですが、作品を拝読したのは初めてで。でも、この作品に出会えて凄く幸せだ! と思いました。
凄い人がいたものだな……と、素直に驚きました。
一話完結なので気軽に読めます。とてもオススメです!