猫のおっさん、追放されたので、田舎でクラフト工房を開くことにしました―――追放直後に目覚めた最強のクラフトスキルを使って、生産チート&スローライフ経営をしながら異世界をのんびり生きていきます。

てるゆーぬ@キャンピングカー2巻発売中!

第1章

第1章1話:田舎で工房を開く

猫族ねこぞくのオッサン―――名前はラノック。


37歳。


身長150センチ。


薄い黄色の毛並みを持つ。


人間族にんげんぞくと同じように衣服を着ているのだが……


ラノックは職人なので、作業着さぎょうぎに身を包んでいる。





ラノックは都会の、とあるギルドに所属して働いていた。


しかし新しく就任したギルドちょうが、人間至上主義にんげんしじょうしゅぎだったせいで、猫族ねこぞくであるラノックは追放されることとなった。


半年前のことである。


そのあと前世の記憶を思い出したラノックは……


最強のクラフトスキルに目覚めた。


なぜ目覚めたのかというと、転生時に『好きだったゲームのスキルを継承させてほしい』と、神様に願ったからであった。


その願いは聞き入れられ、ゲームのチートスキルの数々を、異世界で発現することができた。


おかげで今のラノックは何でも作ることができる。


強い剣も。


強い盾も。


強いアクセサリーも。


強いポーションも。


なんなら前世の道具まで。


だからそのクラフトスキルを活かし……


「自分だけのクラフト工房を開こう!」


一念発起いちねんほっきした。


さらに、せっかく店を開くならば、田舎でのんびり営業したいなと思い……


辺境の地で、クラフト工房を開店する。


名前は【ラノック工房こうぼう】だ。


それがちょうど1ヶ月前のことだ。

   

――――現在。


工房をオープンして1ヶ月目。


ラノックの工房は大繁盛だいはんじょう……!!!!!


……することはなく。

   

閑古鳥かんこどりが鳴いていた。

   

客の数はゼロだ。


1ヶ月間、ゼロ。


たった1人もお客様が来ないという、悲惨な状況になっていた。


「なぜだ!! なぜお客さんが一人も来ない!?」


ラノックの工房は、田舎街いなかまちのはずれにある。


街の住人からすれば、近所に新しい店ができたわけで。


気になったりしないものか?


1回ぐらい、店を訪れてみようと思わないものか?


そうか。


思わないか……。


「くっ……やはり辺鄙へんぴな場所に店を持ったのが間違いだったのか……!」


なるべく大自然だいしぜんに近い場所のほうが嬉しいと思ったので、田舎の街はずれに店を構えてしまった。


客足きゃくあしや売上のことよりも、風情ふぜいとかロマンを優先したわけである。


そんなに過疎地域かそちいきではないと思うのだが、都会に比べると、想定できる顧客の数は多くない。

         

しかしだからといって、ただの1人すら来ないとは思わないではないか。


「せめて、モノだけでも売れたらなぁ……」


ラノックの工房は、以下の2つのエリアに分かれている。


―――――1つは店。


フロアがあり、商品棚しょうひんだなのうえに商品を並べてある。


ラノックが自作したアイテムや道具を、販売してあるのだ。


―――――もう1つは作業部屋さぎょうべや


ラノックがクラフト作業をおこなうための部屋である。


自分が作りたいと思ったものを作る部屋でもあるが……お客さんからのクラフト依頼も受け付けている。


ラノック工房は、以上の2つの部屋から成り立っている。


ちなみに2階もあるのだが、そこはラノックが日常生活をするための空間である。


(つまりお客さんは、店でアイテムを買うこともできるし、俺にクラフトの依頼をすることもできるんだ)


欲しいアイテムや道具があれば買ってくれればいい。


もしそういうアイテムがなければ、俺に製作依頼せいさくいらいをしてくれてもいい。


どちらのサービスにも対応している。


それが【ラノック工房】だ。


しかし……


客は来ない。


1人も客が来ないのだから、商品も売れないし、依頼もない。


月商げっしょうはゼロ。


このままいくと年商ねんしょうもゼロだろう。


「商売って、甘くないな」


ということを、痛いほど理解したラノック。


「しかし……」


ラノックはふいに店の玄関を通って、外に出た。


すると牧歌的な自然の風景が広がっている。


季節は春で、ぽかぽかとした暖かい風が吹きすさんでいる。


少し離れたところには街が見える。


「田舎の生活は、とても素晴らしい」


空気が澄んでいる。


時間がゆったりと流れている。


前世でも今世でも都会暮とかいぐらしだったラノック。


田舎で暮らすことが、ずっとあこがれだった。


その夢が叶ったのだ。


商売は難航しているものの、精神的にはとてもリラックスして、落ち着いていた。





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