この作品との出会いは数日前(遠くを見つめて語り出す)――。
某SNSのフォロワー様が、それはそれは素敵なイラストを上げておられたのです。それは、しゃがんだ長髪男性がこちらを睨みつけるように見上げてるイラストでした。それ以外にも、設定絵のような色んなカットもありました。
えっ、すんごい好みなんだが?
気になって教えていただいたその作品へ飛びました。もう光の速さです。ワンクリックでGO。そして念のため、1話をサッと読んでから光の速さ(ワンクリック)でフォロー!こんなのもう読むしかない。これは好き。絶対好き。終始シリアスだけど、これは絶対に好き。私別にコメディしか読まないわけじゃないからね?たまにだけどシリアスも読むからね?!
というのもですね。
まぁ聞いてくださいや。
まーた宇部はまーたこういうレビューを書くのかと思われたかもしれませんが、まぁ聞いてくださいや(二回目)。そもそも私はこういうレビューしか書けねぇんだ。
だってもうたまんねぇって話なんですよ。どうにもこうにも止まらないんですよ。パッションが。こちとらパッションを原動力にして動いてるものですから。そんなどうにもこうにもな話なんですよ。まぁ聞いてくださいや(三回目)。
あの、ちゃんとした真剣なレビューは他の方のを読んでください。皆さんほんと唸るほどレビューがお上手なので。私のはね、読了後の語彙力消失状態でただただ最高だったっていうのをさらけ出す、いわばライブ後のファンを捕まえてインタビューしてるやつみたいなレビューだから。いいか、読んだらこうなるからな。私のこと笑ってられなくなるからな?(圧)
そう、それでですよ。
まず主人公の霧山真直君。『真っ直ぐ』と書いて『ますぐ』君です。もうこの時点で例のビジュと相まっておばちゃんは泣きそうです(おばちゃんはすぐ泣く)。だって彼ね、あらすじやレビューにもある通り、引きこもりなんです。引きこもりの天才ハッカーなのです。でもね、どうです。この信念に満ちた名前。親御さんはきっと彼に己の信念に真っ直ぐな子になれと、そういう願いを込めて付けたはずなのです(勝手に語り出す)。
私はね、ガッチガチムッチムチのデカい系マッチョも大好きなんですけど、こう、なんていうの?ひょろっとしたマッドサイエンティストとか、シニカルな天才科学者とか、そういうのも大好物なんですよ。そんな私の前に引きこもりの天才ハッカーなんてぶら下げてみなさいよ。想像に難くないでしょう?!ちゅきでーす!
さぁ、ふざけてもいられません。いや、こっちは大真面目なんですけども。
内容はもうそれはそれはハラハラなのです。何せ、相手はカルト教団。しかも、十年前に解散しているのです。さらに、教祖は既に亡くなっています。それはそれは美しい女性教祖なのですが、彼女は教団の解散後、亡くなっているのです。にもかかわらず、彼女は復活しました。教祖として。どういうことなの?!双子とか?!
真直君はありとあらゆるスキルを駆使してその教団に近付くのですが――
いや、何?!
天才か?!
いや真直君は天才です。それは間違いない。天才ハッカーです。スペシャルカッコいい。でっかいヘッドフォンも好き好きの好き。個人的にこのデカいヘッドフォンを装着してるキャラも大好きなのです。何?もしかして私に愛でられるために存在してんのか?と一瞬マジで錯覚しました。そんなわけねぇ目を覚ませ。
それは置いといて。天才って話ですよ。
こんなすげぇ話を書ける作者様、天才か?!って。
もうね、唸りながら読みましたし、ずっとハラハラでした。もうこれプロでしょ。プロの人のお話でしょ?さては作者様天才ハッカーだな?!
とにかくもう止まらないのです。スルスルと読んでしまう。内容はドシリアスなのですが、めちゃくちゃ読みやすくてスルスル読めちゃう。
で、読んでる時の私の脳内がこれ。
やば、バレるバレる。駄目だって、そんなことしたら。えっ、でも、イケる?イケちゃう?あっ、真直君カッコいい!頼む、引っかかってくれ!釣られろ!真直君頑張れ!あっクソ!駄目か!ッツァ――!届けぇ――!頼む、エコー!西園寺さ――んっ!!
これです。ご査収ください。
良いか、マジでこうなるからな。私のこと笑ってられなくなるからな?
自室に引きこもっているハッカーの真直。彼はある日、美人教祖を崇める集団『サルベイション』の名を耳にする。
どんな罪にも許しを与え、優しく再起を語りかけてくる教祖、天音アムレア。美しく気高い彼女はまさに、現代の『救済の女神』と呼ばれる存在だった。ビデオチャットやオンライン説明会など現代らしいツールを駆使してラフに、そしてフレンドリーに信仰を呼びかけるその集団の情報を、真直は信じられない想いで見つめていた。
それもそのはず。過去に教祖『天音アムレア』はすでに自殺し、教団も壊滅している。間違いない。
なぜならその煽動者は他ならぬ、真直自身だったのだから――。
完全なる救済のため蘇ったという女神。
コミュ障ハッカーはふたたびその嘘のヴェールを引き剥がすべく、キーボードを叩く!
*
終盤までのほとんどが、「自室のPCに向かい合う主人公」という書き手泣かせの構図です。しかし真直くんの理路整然としたするどい思考に読者もすぐに取り込まれ、なんだか自分がデキるハッカーになったかのようなスリリングな駆引を体感することができるのがなんとも不思議でした。いや真似しちゃいけませんよ!
添付の画像にプログラムを仕込んだり、あるいは別人のアカウントを作って会員の情報を抜き取ったり。はい、もちろん悪いことですね。しかし真直くんには、そんなアウトローな手段を用いてでもかの教祖の謎を暴く必要があったのです。それは彼が過去に追った傷と罪の物語ですが、この時点でも「正義か悪か」の問いかけがびしばしと読者へと投げつけられます。
本当の釣りのようにネットの海のあらゆる場所に餌や罠をめぐらせ、そうやって掴んだ小さな手がかりを次の捜査へと広げていく。絶対に怪しまれてはいけない。相手は過去にリンチ事件も起こしたような危険な集団です。一手でもしくじれない情報技術&心理戦はドキドキの連続で、いつも章の切れ目まで読み終わってようやく「っっはあああああ」と呼吸を思い出すほど。現代サスペンス、こんな形になったんだ…!という新風を感じました。
サラサラとプログラムを作り上げていく真直くんはとても淡白です。もっぱらの話し相手と言えばPCアシスタント的存在の『エコー』だけ。そんな彼の視点なので、文章自体もすっきりしていて淡々とした作業風景が描かれています。しかし彼の過去の傷や、悩み苦しむ信者たちの葛藤、そして物語が急転する終盤では深い人間ドラマが光ります。
そう、どんなに無機質に過ごしていても彼は全然完璧なロボットではなく、失敗や苦しみと共に歩む人間なのです。機械と人間は、どちらがより完璧な救いを、あるいは深い絶望をもらたすか――作者さんはそんな難しい問題に果敢に挑んでいるように見えました。
決して「チートなウイルスをばら撒き、悪の教団をスカッと壊滅!」という単純な話ではありません。悪を倒すことは時として、より多くの悲しみを生み出す結果につながることもある。そんな不安定な判断しかできない人間よりいっそ、完璧なプログラムにすべてを委ねてしまえれば……?そんな気持ちさえ浮かんでしまうほど、現実は残酷です。
けれどそんな闇の中、真直くんは過去の自分の罪と向き合い、現在の彼として決断を下します。
どんなラストが待っているか、ぜひその目で確かめてみてください。
何事も合理的に済ませる霧山真直が一枚のチラシを手にしたところから物語は転がり始める。
美人教祖が微笑む紙面に綴られたのは二十年前に生まれた十年前に解散した『サルベイション』のものだった。真直の脳裏には彼女の記憶が焼き付いている。死してなお復活したとは語る教祖は何者なのか。
真直はその真実に挑む。
不摂生、引きこもり、コミ障、手段を選ばない。全くもってヒーローらしくない主人公をなぜか応援したくなるのは人間味が溢れているからではないでしょうか。過去の過ちに目を背けず、自身の弱さに足掻く姿をつい追いたくなりました。
どこか淡々とした筆致で紡がれる切迫した世界観。プログラミングやAIの知識は、明るくない私にもすんなり入ってきたので、物語に染み込むほどに調べものをされたのだろうと驚かされます。
現代に起こりうるかもしれないと恐怖を抱かずにはいられないサスペンス。リアルが密につまった頁をめくる手が止められなくなること必須です。
十年前に解散したはずのカルト教団「サルベイション」。しかし、復活した彼らのパンフレットには、かつて自殺した女性が「救済の女神」として掲載されていた。彼女は本当に死んだのか、それとも――?
引き籠もりとオカルト雑誌編集者というバディは、ミステリの探偵役としても申し分ない活躍ぶりですが、本作がキャラのたった探偵ものに止まらないのは、作品のテーマにあるでしょう。
主人公たちは、教団の実態を暴こうと奔走しますが、その過程で浮かび上がるのは、カルトの闇だけではありません。現代社会に根付く問題を巧みに織り込みながら、サスペンスとしての面白さを決して損なわない構成には、ただ圧倒されるばかりです。
謎が謎を呼び、気づけば物語に引きずり込まれ、一気に読んでしまいました。サスペンスとしての緊張感はもちろん、カルトや生成AIといった現代的なテーマを織り交ぜながら、単なる問題提起に終わらず、物語としての面白さをしっかりと成立させているのが素晴らしかったです。リアルな社会問題と極上のサスペンスが融合した、濃密な物語でした。
引きこもりのハッカー、霧山真直。彼は復活した新興宗教の秘密に踏み込んでいく。かつて己が犯した「罪」に背中を押されるかのようにーー。
さて、現在は2025年の冬。巷では急速に広まっていくAIの話題で騒がしい。これは、そんな「今」だからこそ成立し、そして読むべき物語だ。この話のなかの出来事が、絵空事でもなく、または色褪せた技術でもなく受け取れる今だからこそ。
といっても、技術についてだけを語る作品でもない。死んだはずの教祖、天音アムレア。彼女はまるで昔そのものの姿を世間に晒し、救済を約束する。そして、かつて教団と深く関わった真直の「罪」を救うべく、モニターの画面越しに甘く囁く。真直の罪とは? このあたりの人間ドラマの造りが非常に巧妙で、人間にとって罪とはなにか、救いとはなにかを深く考えさせられる。そしてラストへ向かっての加速も、まさにサスペンスドラマを見ているようで手に汗握る。そんな全体の構成も見事としか言いようがない。
読了後、技術の進化と人間性の狭間で揺れ動く自分の心を深く噛み締めざるを得なかった。
機械が述べた言葉であろうと、人間が述べた言葉であろうと、そこになんらかの意味を人が見出せば、言葉は言葉としての価値をなす。
だが、それを判断するのも他ならぬ人間なのだ。
そしてやはり、今、この作品を読めて良かったと強く思う。
引きこもりでハッカーの青年、霧山真直。
かつて解散した新興宗教サルベイションの復活を知り、過去に因縁のある真直は対峙を決意しました。
真直は手段を選ばず情報を集め、危険も承知でサルベイションの情報収集を続けます。
冷めた性格に見えた真直にあるのは熱い覚悟。
ネット越しでも対峙は緊迫感があり、ハラハラして次々読み進めたくなります。
そして直接対決へ。
辛い状況でも逃げず、最後まで真実を追い続けた真直の姿が見所です。
デジタル分野への造詣も深い今作、ハッキングや詐欺の手口も詳しく書かれており苦手な方も安心して読めます。
そしてより丁寧に描かれるのが、デジタル技術が発展していく昨今だからこそ問われる、心。
己の罪との向き合い方。過去の償い方。救済を求めずにはいられない人の性。
溢れる情報を無責任に扱ってはいないか、他人事だと思わず我が身を振り返るべきでしょう。
今こそ是非読んでほしい作品です。
「サルベイション」という新興宗教――それは、解散したはずの団体だった。過去不祥事により解散したその宗教団体は、主人公である真直とは浅からぬ縁のある団体であった。
そして、そこに載っている救済の女神。天音アムレアという女性は、自殺したはずだった。
インターネットが発達した現代において、誰もが気軽に誰かと繋がれる。けれどそれは同時に、誰もが気軽に誰かを攻撃できてしまう、とも言える。
AIやネットワークの発達、それは何も遠い未来の話ではなく、すぐ近くにまでやってきていることなのかもしれない。そんな「あるかもしれない」をフィクションに上手く落とし込んだ本作。
天音アムレアは本当に復活したのか。彼女は実在しているのか。
進むにつれて手に汗を握る展開が待っています。
読み始めたら止まらなくなること間違いなしの一作。
ぜひ、ご一読ください。
スタイルとしては安楽椅子探偵といった感じの雰囲気です。主人公は真直は引きこもりのハッカーという事で、部屋から一歩も出ません。
だけどこの現代、インターネットという大海が存在しており、彼はパソコンを扉として広い世界に出ているので、完全な引きこもりとは言えないのかもしれません。
お話は解散したはずのカルト教団の復活からはじまります。罪を告白すれば救済されるという教義は、誰しもが持つ罪の意識を刺激して、それから逃れるために入信する信者も多かった模様。それを若い好奇心と青い正義感で彼は解散させ、教祖を自殺に追い込んでしまった。この過去は彼の心に棘となっていたようですが、教団が復活したことにより疼きだしてしまう……。
その過去に決着をつけるため、己の罪と向き合いながらもネットを駆使して教団の復活の謎に挑む。
主人公が知る事と読者が知る事は同時進行なので、謎に迫っていく臨場感は実際にありうる出来事というリアリティも相まって、とても面白いです。